「筆談のかけそば」
もう20年前にもなろうか、出所不明な一編の物語が会社のfaxに着信した。
そこには「一杯のかけそば」というタイトルが記されていた。
あまりにも有名な話で、映画化された事もあってご承知の方が多いと思うのだが話の内容はたぶん次の通り。
大晦日の夜、閉店間際のそば屋に2人の子供を連れた貧相な女性が来店し、一杯のかけそばを注文する。
店主が気を利かした大盛りのかけそばを親子3人で分け合って食べながら、交通事故で亡くなった父親の好物だったの
で年に1回の贅沢に大晦日の日に来店すると聞かされる。
それから毎年、毎年、大晦日になると一杯のかけそばを注文しては分け合って食べる親子の姿があった。
いつしか店主は大晦日の日には、なじみの席を親子3人の予約席として待つようになる。
しかし、ある年を境にパッタリと来店しなくなるが、それでも店主は大晦日の予約席は外さずに親子を待ち続ける。
そして十数年後、年老いた母親と就職し立派な姿となった子供二人が現れ、かけそばを三杯注文する。
店主は涙ながらに「あいよっ!かけそば三丁ね!」
てな、べたな話ではあるが当時は不覚にも泣かされてしまった。
だが、この話には後日談があり、実話か創作かをめぐる騒ぎの最中に確か作者が詐欺容疑で逮捕される事件が起きた。
そしてその後、この一杯のかけそばの話は世間から葬り去られる事となる。
家元の流した涙は一体何やってんと、少し腹立たしい思いをしたことを覚えている。
それに似た感覚を昨日味わった。
1月10日の日曜日、世間でも話題になっていた本のテレビドラマ化で「筆談ホステス」という番組を見た。
あまりにも有名な話なので内容は省くが、やはりヤラレてしまった。歳をとると涙もろくなる事もあって、そんな
アホなと突っ込みながらも泣かされてしまった。それもけっこう本気で泣かされた。
にもかかわらず、昨日の文春にそのクラブの支配人があの話はデタラメだと暴露した記事を読んだ。
抜粋すると「筆談」を武器にしてお客様のハートを掴んだ事も無ければ、銀座ナンバーワンの売上などした事が無い。
「愛言葉」なんて25歳のホステスが接客で筆談を実際にしたら、銀座のお客様は「何を偉そうに!」と拒絶反応を
起こすことになる。
現在この作者は巨額の印税を巡って係争中だとか・・・うんぬん
そうやろうなぁ~ドラマの下りで不況で倒産する社長に辛いに一を加え幸の字にして「辛いのは幸せになる途中」と
書くと社長は涙を流すというシーンがあって、思わず「そんなヤツは銀座のクラブには来んやろ!!!」…と
突っ込みながらも泣いている自分が愛おしかった。
まあ本当でもウソでもどちらでもいい話なのだが、この程度の話で流した涙が口惜しい・・・・・
今度はそば屋に行った時にでも「筆談」で注文してみよう。
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